1 あらすじ
女将の加賀美環は長男伸一の嫁である恵美子が女将修行に乗り気でないため、女将修行をさせて欲しいと申し出た綾華にも女将修行をさせることにした。綾華の女将修行に対して元大女将のカツノは反対したいが、既に引退しているので、女将の環の申し出を認めた。自分一人が女将修行をできると思いこんでいた夏美も綾華の女将修行に困惑気味だが、自分のための修行だと思い、頑張ることになった。
番頭の中本が腰を痛めたので、庭の手入れを夏美がやることにした。夏美に対して厳しい態度だった中本も、庭仕事を代わってもらっているため夏美に好意を持つようになった。一方、老舗料亭で育ち、接客の心得がある綾華は接客の仕事を始める。夏美は蔵の中の食器の整理で板長から役に立たないと言われ、器の勉強を一生懸命にするが、脚立かた落ちて怪我をする。
怪我をした夏美だけでは大変なので、時江は綾華にも蔵の整理を手伝わせる。綾華は不注意で大女将が好きな織部の小皿を割ってしまう。女将は仲居を集めて、誰が小皿を割ったのか、問いただす。しかし、金を盗んでも女将修行をさせて欲しいと言うくらい悪い女である綾華は正直に言い出せない。浩司から綾華への想いを聞いている夏美は綾華をかばって、「私が割りました」と申し出る。綾華と夏美の不自然な言動を見て、女将は綾華が隠し立てしたと気づいたが、自分が女将修行をさせている綾華の立場を悪くしないように、夏美が割ったことで事を納めた。
環はその機会を捉えて、夏美を追い出しにかかる。環は夫の久則と長男の伸一と共にカツノのもとへ行き、「夏美のために加賀美屋の和が乱れている」と訴える。それ以上のことを言えない環に代わって伸一がカツノへ言った。「柾樹が戻ってこなければ、夏美さんと加賀美屋は何のゆかりもないことになります。どうして柾樹と夏美にこだわるんですか。自分も大女将の孫です。俺のこと見てくれていますか。なぜ俺を認めてくれないんですか。単刀直入に言います。夏美さんの女将修行を止めさせていただきたい。」
夏美のために、加賀美屋の雰囲気が悪くなる。夏美を追い出したい環は仲居たちを叱りもせず、放置する。加賀美屋が修羅場になっているのに、いつまでたっても横浜のホテルで楽しく働いていた。加賀美屋の常連客である吉田家の婚礼が柾樹のホテルで行われ、柾樹の発案による結婚式のインターネット中継が採用された。吉田が夏美へ感謝の気持ちを述べている情景を見た柾樹は、「夏美のそばへ行く。盛岡へ戻って加賀美屋を継ぐ。」とその決心を夏美へ伝える。
2 経営のポイント「権力闘争」
人間が複数集まれば、そこに関係が生まれ、状況によっては権力の行使と需要の関係が生じます。人間には支配欲があるため、権力の関係はしかたがない面があります。加賀美屋のような株式会社には大女将-女将-仲居頭-仲居といピラミッド型の公式の指示・命令系統があります。それとは別に姑のカツノと嫁の環、姑の環と嫁の恵美子、伸一と恵美子といった非公式な権力関係も生まれます。
権力関係も行使される側、それを受ける側、互いに納得し、共存出来ればよいのですが、その権力関係が権力を巡る争い、すなわち権力闘争になり、人間関係を悪くしたり、企業の目的を阻害することになります。従って、権力闘争が起きないように配慮するのがリーダーである大女将や女将の役割です。さて、第13週では大女将と女将の権力闘争、そして、その代理戦争としての夏美と綾華の争いに注目してみましょう。
元大女将のカツノは柾樹の母であった俊江を女将にするため、環の女将修行の申し出を認めませんでした。カツノは環は優れた女将であると認めるものの、一つだけ欠けていると考えています。それを環には伝えず、環の次の女将として、俊江の長男である柾樹を経営者へ、その嫁になるであろう夏美を女将へ育てようとしています。そして、環の長男伸一には旅館を継がせるとは考えていません。
一方。カツノは死んだ俊江より評価されていない女将の環は、カツノへの恨みやカツノに可愛がれている夏美へ嫉妬心もあります。それがカツノに肩入れしてもらっている夏美を盲目的に追い出す、誘因になっているようです。
加賀美屋はカツノが大女将だった時代に経営を悪化させてしまいました。もちろん、カツノを支えていた環や次男の久則にも責任はありますが、カツノいじょうではありません。そうした自分の経営責任を棚に上げて、環の女将と資質を論じるカツノは自分自身の経営責任をどう感じているのでしょうか。
そのカツノが環の意向を無視して、次を担う若女将候補として夏美に決めることは、環の権力を抑制し、女将の後継者である若女将へ自分の影響力を温存すると誤解されます。それは、カツノと環の権力闘争だけでなく、環と夏美の関係を悪くします。環がそれに反発し、綾華に女将修行をさせれば、綾華と夏美の間で権力闘争が生じます。さらに柾樹と伸一の間の権力闘争を生じさせます。
それでは、どう解決すべきなのでしょうか。カツノは不本意であったとしても自分の後継者として環を選んだのであれば、環が女将として手腕を振るいやすい環境を創ってあげるべきです。カツノは引退と共に権力を手放し、旅館の経営に口出しすべきではありません。
環と久則夫婦、長男の伸一と次男の浩司は既に加賀美屋を支える重要な戦力になっています。したがってかつて女将であった俊江の長男である柾樹を加賀美屋へ戻すことは、彼らを加賀美屋の中核から外すことに繋がりかねません。そうなれば権力闘争が生じますし、旅館経営に関してはよく分からない柾樹へ加賀美屋を任せるリスクもあります。したがってこうした意思決定はカツノは慎重にすべきでしたし、意思決定の際には家族親族会議を行い、環一家と柾樹の役割分担や将来の処遇を議論し、彼らの不安や不満を和らげながら、合意を得るべきです。後の祭りですが。
もし、どうしてもカツノが柾樹、夏美に加賀美屋を継承させたいのであれば、子会社や事業部を新設し、久則や伸一にはそこを任せるような工夫をすべきでしょう。
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