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河西邦人

Author:河西邦人
札幌学院大学教授。企業経営から地域経営までをカバーする。北海道公益認定等審議会会長、北海道地域雇用戦略会議メンバー、北海道コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス協議会会長、江別市、北広島市、夕張市、石狩市、積丹町、ニセコ町等のまちづくりアドバイザー、各種起業講座や経営講座の講師など公的活動を行っている。北海道NPOバンク理事を通じた社会活動にも従事。著書として、『コミュニティ・ビジネスの豊かな展開』(監修)、『NPOが北海道を変えた。』(分担執筆)、『ソーシャルキャピタルの醸成と地域力の向上』(共著)、『ドラマで学ぶ経営学入門』(単著)がある。

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「どんど晴れ」第17週のあらすじと経営的視点

1 あらすじ「柾樹の孤立」
 加賀美屋の経営情報を分析していた副総支配人の加賀美柾樹は、女将の加賀美環の許可を得て、経営改革に乗り出した。まず手を付けたのは板場の改革である。加賀美屋の年間収入は4億7,400万円。年間の食材費は8,734万円。柾樹の想定した適正な売上高食材原価率の17%をオーバーしており、680万円弱を削減する余地があると考えた。頑固な職人気質の板長がいる板場の改革は難しい、と女将の環は考え、あえて柾樹の思い通りにさせることにした。
 柾樹は板長の篠田に対してストレートに余計な魚を仕入れないで欲しいと申し入れる。魚の卸商との良好な関係によって良い材料を仕入れるために、低価値の魚を一緒に仕入れ、それが材料費を増やす一因になっていた。柾樹の申し入れに対して、板長の篠田は反発し、仕入方法は変えないと言う。

 地域のしがらみや古い慣習を持たない柾樹は、板長の篠田の了承を得ず、ネット販売している若い漁師グループから、必要な魚を安く仕入れ、従来からの魚の卸商との取引を切った。それを知った板長の篠田は怒り、柾樹と対決する。女将の環を含め、旅館の人間は柾樹に謝罪するよう迫るが、柾樹は加賀美屋のためにと仕入れ先の変更を板長に認めさせようとした。そして、柾樹は板長の篠田が魚の卸商からキックバックを不正にもらっていることを暴き、形勢を逆転しようとした。その結果、皆の前で面目を潰された板長の篠田は弟子を引き連れ、加賀美屋を辞めた。
 板長が辞めた加賀美屋は食事を出せなくなり、危機に陥る。旅館組合を通じて料理人の派遣を願うが、魚の卸商の妨害で断られる。旅館の危機に対して大女将の鶴の一声で、かつて腕の良い料理人だった現社長の加賀美久則が板場に立つことになった。そして、人手の少なさを補うため、女将の環は女人禁制のしきたりを破って板場へ入り、浅倉夏美、加賀美恵美子、総支配人の加賀美伸一と一緒に料理を手伝った。

 久則が久々に料理したが宿泊客からの評判も良く、板長が辞めた危機を乗り切った。加賀美家一家と夏美が中心になって危機を乗り切ったことにより、女将の環の家族と夏美の関係はより近いものになった。その時、失踪した柾樹の父の話を聞いた。
 一方、柾樹は板場の改革を進められたものの、その強引なやり方は周囲の理解を得られず、孤立感を深める。しかし、加賀美浩司は柾樹の板場の改革へ理解を示すようになる。

2 経営改革の担い手
 経営改革を行なう場合、まず、改革の担い手を考えます。改革の担い手は広範囲に、強力な影響力を与えるため、できるだけトップに近い人物が直接、もしくは深く関与して行なうことが望ましいです。加賀美屋であれば、大女将や女将が経営改革の旗手になり、周囲の親族や時江のような近い関係の人間とと協力しながら行なうということです。
 改革の担い手に関して次に考えるべきなのは、これまで会社内で活躍していた人か、外部の人か、という選択です。前者の場合、過去の経営の失敗という負債を負っての改革なので、大変です。ただ、社内を熟知しているので、反発にあいにくい実行も可能になるかもしれません。後者はしがらみがなく、過去の負債を負わないため経営改革を提言できますが、実施段階で社員の反発を食う懸念があります。

 両者の中間に、外部の人が社内に入り、会社の人間として改革を行なう方法です。外部の人間としての新しい視点やしがらみのない経営改革を提案し、社内の人間を味方に付けて改革の後押しをしてもらうこともできます。柾樹はこの立場で経営改革を行なっています。
 しかしながら、柾樹自身は加賀美屋の有力な社長候補で、女将に形式的な権限を持たせてもらっているとはいえ、外部から加賀美屋へ入った新参者です。柾樹への女将の環、社長の久則、大女将のカツノの強力な後ろ盾やコミットメントを得られていなかったことが、板長から猛反発を食う一因になりました。
 経営改革を成功させるには、誰が行なうのかということは当然、大切ですが、それと共にどうやって改革していくか、改革の戦略も重要です。次回はそれを説明したいと思います。
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テーマ : 企業経営 - ジャンル : ビジネス

「どんど晴れ」第16週のあらすじと経営的視点

1 あらすじ「競い合いの決着」
 元大女将の加賀美カツノが押す若女将候補の浅倉夏美と、女将の加賀美環が贔屓にする彩華の修行対決は、女将の環の発案でガイドブックの調査員の評価で決定するということになった。結果は夏美が担当した田辺という客が実は調査員だった。
 田辺の無理な要求に対して夏美は加賀美屋の伝統、格式、しきたりの中で最高のもてなしを味わって欲しいと、田辺を説得した。その接客が田辺の好感を呼び、ガイドブックでは夏美のもてなしが絶賛された。
 女将の環はガイドブックの評価はさておき、彩華が加賀美屋のしきたりを破って、彩華が担当した川端という客に特別な料理を出して優遇したことを重んじた。大女将のカツノにも促され、環は夏美と彩華の女将修行の決着に関して、夏美の勝ちと判断を下した。彩華の仲居としての物腰や気配りを評価しつつも、加賀美屋のもてなしの理念を理解していない。まだ仲居として十分なスキルを持っていないものの、加賀美屋のもてなしの理念を理解し、実践できている夏美を、個人的感情はさておき環は評価したのだ。

 それに加えて彩華の借金の取り立て人がやってきてしまい、彩華の借金の事が加賀美屋の人間に知られてしまう。若女将候補として見られてきた彩華の評判は一気に悪化する。支配人の加賀美伸一は彩華を「厄介者」とまで言い切り、彩華のシンパだった従業員もよそよそしい態度を取る。そんな状況でも彩華に変わらず接する夏美に、彩華は全てを打ち明ける。帳場の金の盗難、夏美の評判を落とす工作、皿を割ったこと、全てに恵まれている夏美に対する嫉妬。
 彩華は自分になくて夏美にあるもの。女将として不可欠な人を信じる心が自分には不足し、女将修行の負けを認め、加賀美屋を辞めると言う。女将の環は彩華に加賀美屋へ残るよう説得するが、彩華は盗んだ帳場の金も付き合っていた加賀美浩司から借りた金の事をうやむやにしたまま、加賀美屋を去っていった。

2 女将修行の決着に見る後継者選び
 旅館経営において女将の役割は重く、加賀美屋でも代表取締役社長は女将の環の夫である加賀美久則が務めているものの、実権は元大女将のカツノや女将の環が握っているようにドラマでは描かれています。現実の旅館においても、女将は旅館内でのもてなしに関わる責任者であり、場合によっては営業活動もするので、女将が社長以上にリーダーシップを発揮する旅館は多くあります。
 その女将の後継者になる若女将を決めると言うことは、次世代の旅館経営の根幹へ影響する、きわめて重要な経営上の意思決定になります。旅館の経営者一族の中に長男の嫁、もしくは長女がいて、初めから後継者が決まっているケースは除き、複数の女将候補がいる場合、若女将の決定は慎重になされなくてはなりません。

 ドラマですから女将修行の決着というわかりやすく、おもしろく描かれています。しかし、現実の旅館経営では同族の中に複数の後継者が存在する場合、時間的な余裕があれば後継者選びには時間をかけます。ガイドブックの評価で決める、という限定された、特殊な状況では決定しません。日々の日常業務の中で女将候補者を仲居としての接客だけでなく、経営理念の理解、人間性、他の従業員に対するリーダーシップ、業務におけるお金の流れ(キャッシュフロー)の把握、営業能力など、リーダーとしての能力と資質を多角的に見て、女将が決めます。
 女将候補の決定は本人のみならず、旅館の権力構造や財産分与へも大きく影響を与えます。したがって、過度な競い合いの中で女将候補を決定しようとすると、家族、親族、従業員の関係に不和を生み、旅館経営に悪影響を与えます。場合によっては、お家騒動になり、誰かが旅館を辞めなくてはなりかねません。ですから女将は女将候補の日常業務での仕事ぶりを鋭く見ながら、淡々と評価することが必要です。

テーマ : 企業経営 - ジャンル : ビジネス

牛の願いを、酪農に夢を

1 話の概要
 関東農業大学で学ぶ6人の若い男女学生が3ヶ月の牧場研修を受けるため、北海道北見別町(架空の地域)へやってくる。6人はそれぞれの事情を抱え、卒業用件を満たすためにしかたかなく来た、という学生もいる。受け入れる町の酪農家たちは学生の仕事ぶりに不満を持つが、町のためにということで受け入れている。
 6人の中で高清水高志は北見別町出身で、他の学生2名と共に自分の実家の高清水牧場で研修することになる。高清水高志は大学を辞めようと思っているため、父をうまくいっておらず、研修先の実家の牧場でいろいろ問題を起こす。しかし、大学での勉強によって得た知識だけはなかなか牛の世話はうまくいかないため、酪農家を実家に持つ高清水高志がいろいろ他の学生に指示をし、頼りにされている。それに対して研修学生の班長である真野統平は複雑な気持ちになる。

2 日本の酪農の現状
 景色の良い夏の北海道で旬の若手俳優を集めて人気ドラマを作ろう、そんなコンセプトかもしれません。しかし、なぜ酪農を舞台にしたドラマなのでしょうか。酪農業に対するテコ入れというのはうがった見方でしょうか。実は日本の酪農業、中でも生乳の46%を生産する北海道の酪農業は厳しい状況です。

 昨年、北海道では供給過多になり乳牛を廃棄する自体になり、ニュースで大きく取り上げられました。乳牛を原材料にした乳製品は少子化、カロリーの高い飲食物を嫌うダイエットブーム、といった要因から消費量が低下しています。1994年に516万キロリットルの乳製品生産量は2005年に426万キロリットルへ減少しています。
 酪農業を巡る経営環境の厳しさから、廃業する酪農家もあり、酪農家の数は減少しています。1989年に全国で66,700戸あった乳牛生産者は、2004年に28,800戸へ減少しています。その間の1戸当たりが飼っている牛の数は30頭から59頭へ増加し、乳牛生産者は大型化していると言えるでしょう。大規模乳牛生産者しか生き残れない状況かもしれません。
 農林水産省の調査によれば、平成17年度の酪農家1戸当たりの農業粗収益は3,469万円、農業経営費2,716万円、所得は753万円です。粗収益は乳価の低迷、乳牛取得費用の上昇で、所得は減少気味だそうです。主業農家の平均世帯所得が414万円なので、普通の農家よりは所得は良いものの、20頭未満の小さな牧場の所得平均は236万円、100頭以上の牧場の所得平均は2,038万円です。その数字から見られるように、規模の経済が働くビジネスなので、飼う牛を増やそうとすれば投資も大きくなり、失敗したときのリスクが高いビジネスなのでしょう。

 北海道でも主を失った牧場が少なからず見受けられます。また、日本とオーストラリアの間でFTAの交渉が開始され、北海道の酪農業へ悪影響を与えると予想されています。酪農に夢を持てるドラマになるのでしょうか?

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サービスとおもてなし

1 夏美への高評価
 浅倉夏美の接客は、ガイドブックの調査員の記者から高く評価された。夏美は恋人の加賀美柾樹からのアドバイスのお陰と感謝する。柾樹はこう答えた。「最後の最後に夏美は気づいた。老舗旅館の本当のおもてなしの意味を。ホテルは顧客の要求にできる限り応えようとする。それがホテルのサービスなんだ。その加賀美屋の時間の中で全てが決まってくる。そんなしきたりの中で最高のおもてなしをすること。それが加賀美屋のあるべき姿なんだよ。」
 一方、女将の加賀美環は夏美のライバルの綾華に対して、優雅さ、気配りのある接客、お花の腕前を評価しながらも、「何もしなければ勝てたのに…残念です。」と、綾華たちが女将の環の命令を破って、調査員を特別扱いしたことを理由に負けを宣言した。「待ってください、あのお客様が私のお客様ならちゃんとおもてなしができました。」と綾華は反論するが、「この老舗加賀美屋のおもてなしはサービスと違います。」と、女将の環は一蹴した。

2 サービスとおもてなし
 ドラマの中で柾樹や女将の環の言葉で、ホテルのサービスと加賀美屋のおもてなしの相違を示しています。しかし、柾樹の言葉も抽象的なので分かりにくいものでした。「サービス」と「おもてなし」を渾然と使用しているケースもあり、サービスとおもてなしを明確に区別することに対してそれほど大きな意味はないかもしれません。しかし、ドラマの中では区別されていたので、その差を説明をしましょう。

・サービスとは
語源のsarvant(召使い)から生まれたservice(サービス)は上下関係の下で行なわれる奉仕を意味します。お金を支払っている顧客が望むことをできうる限りかなえていく行為です。

・おもてなしとは
もともとは大切な人を歓待する、心遣いをする、といった行為を意味します。そこには上下関係ではなく、大切な人、重要な人に喜んでもらう、心地よいと感じてもらう、というもてなす側の想いが存在するだけです。

 加賀美屋でのおもてなしは、顧客の望むものをできる限り提供することではなく、加賀美屋の伝統と格式の中で心地よい時間を過ごしてもらうことと私は理解しました。より具体的に言えば、顧客の荷物を持って部屋へ案内する、食事を部屋へ配膳する、お酌をする、布団を敷く、などの行為はサービス。したがって宿泊料金をもらう以上、最低限なすべき行為です。一方、おもてなしはそうした仕事としてのサービスの部分も含みながらも、それに心遣いが加わった行為を指し示しているようです。例えば、柾樹の元恋人の香織が朝早くチェックアウトするのでおにぎりを作って、持たせてあげること。盛岡の地理に詳しくない夫婦の客に手書きのわかりやすい地図をあげること。ジャジャ麺を食べたいという宿泊客に専門店ではなくイーハトーブのような怪しげな喫茶店へ案内すること。

 おもてなしはサービスという仕事以上の行為であり、心遣いを女将が仲居へ求めても、なかなか難しいでしょう。また、サービスはマニュアル化できても、心遣いはマニュアル化しにくいものです。夏美はサービスに関して不十分な能力しか持っていないものの、心遣いを持っている。綾華はサービスに関する十分な能力を持っているものの、心遣いを持っていない。そんな視点で女将は夏美を評価しているのかもしれません。

 しかし、宿泊客が宿泊料金を支払っている以上、サービスの部分がしっかりできていることが優れた旅館としての必要条件です。心遣いはより優れた旅館の十分条件です。それは優れた仲居の条件としても言えます。
 食中毒の危険性があるにもかかわらず、仲居個人がおにぎりを作って、持たせてしまう。友人に対する心遣いとしては良いかもしれませんが、旅館のサービスとしていかがでしょうか?
 もし、夏美のように心遣いができる資質を持った仲居がいたら、まずは仲居として必要なサービスを提供できる能力を鍛えます。そして、自分の取ろうとしている行為が旅館のサービス、心遣いとしてふさわしいか、考える習慣と、問題になりそうなことがあったら上司へ報告、連絡、相談をさせる習慣を身につけさせておくべきでしょう。

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「どんど晴れ」第15週のあらすじと経営的視点

1 あらすじ「伝統は変えられません」
 恋人の加賀美柾樹が仕事を辞めて加賀美屋へ戻り、元気に修行する浅倉夏美。成長著しい夏美だが老舗料亭育ちの綾華に立ち振る舞いは劣る。しかし、加賀美環はどんな人の心を捕らえてしまう夏美の不思議な力に恐れていた。
 病床の母のために加賀美屋の女将の座を狙う綾華は、柾樹になぜ加賀美屋で修行をしているのか、その本心を告白する。人の気持ちを捕らえてしまう「天性の才」を持つ夏美に対して、女を落とすことにかけての「天性の才」を持つ柾樹は「綾華が悪いんじゃない。綾華が一番辛いときに側にいてやれなくてごめんな」などと調子の良いことを言い、綾華の気持ちを捕らえた。思わず柾樹の胸に飛び込んだ綾華の姿を見た浩司は愕然とする。
 
 それはさておき、地元の観光協会から、ガイドブックの調査員が身元を隠して評価しに来るので加賀美屋で受け入れてくれと、依頼があった。女将の環は調査員の評価で若女将の決着を付けようと考える。支配人の加賀美伸一と仲居頭の時江は環から駄目出しされたものの、綾華を有利にするために、ガイドブックの調査の件を綾華に教える。
 そんなある日、「川端」という壮年男性が旅館へやって来る。予約を入れているものの、男一人での宿泊とあって、調査員風。伸一と時江は部屋付きの仲居を差し置いて綾華を部屋付きでサービスをさせる。その日に裏口を除いていた怪しい「田辺」と名乗る中年男が予約なしで泊まりたいと言ってくる。その田辺は夏美が担当する部屋へ宿泊することになった。

 田辺は「岩手山が見える部屋へ変えてくれ」とか「ジャジャ麺を作って欲しい」と我が儘を言う。「田辺様、加賀美屋へお泊まりに来たということは、加賀美屋の伝統と格式でお過ごしになるということ。お料理という加賀美屋のおもてなしを受け取って欲しいのです。」と田辺を諭す。そして、さらにジャジャ麺を食べたかったという田辺を仕事中にも関わらず、イーハトーブへ連れ出す。
 田辺がチェックアウトする朝、女将の環が旅館組合関係の旅行中ゆえに、大女将と夏美は見送りをした。その際に、田辺が無理な要望に対する夏美の断り方では気を悪くする客もいるが、老舗の加賀美屋なら客も考えなくてはいけないかもしれない」と言われ、夏美は落ち込む。

2 サービスの基準
 覆面調査員がやって来て、受け入れる旅館側が右往左往する展開では、「私を旅館に連れてって」の第5話が非常に良い出来です。「どんど晴れ」はどんな展開になるのでしょうか。私が定期購読している「日経トレンディ」ではビジネスホテルやシティホテルを中心に、定期的に覆面調査を行なっています。日経トレンディの覆面調査はホテル側に何も知らせず、一般客として宿泊し、ハードとソフトのサービスを評価しています。ただし、「どんど晴れ」のように無理難題をどう対応するか、という調査ではなく、設備の快適さや使いやすさ、客室の清掃具合、名物店の案内、会社からの宿泊客への伝言、忘れ物への対応、普通のビジネスマンが経験しそうな内容に関するチェックです。

 旅館は建物、設備、備品といったハードのサービスと、接客や料理といったソフトのサービスを提供します。ハードのサービスの品質はあるコントロールが可能です。広さや景色など差異が出てしまうハードのサービスは、料金の差異で対応します。一方、人が作り出すサービスは従業員によってばらつきが出てしまう懸念があります。一定水準のサービスを提供するため、旅館はサービスの理念によって従業員の行動基準を示し、一定水準のサービスをマニュアルなどで規定し、研修によってサービスの一定水準のサービスを実現します。
 夏美のサービスを見ていると、よく言えば機転が利く、悪く言えば場当たり的に、夏美が考えているサービスを提供しようとしています。例えば、怪我をしている客を八幡平へ連れ出す、母親に相手をしてもらえない子供を祭りへ連れ出す、客にイーハトーブでジャジャ麺を食べさせる。一見すると顧客満足を追求したおもてなしのように見えますが、加賀美屋としてふさわしいサービスを提供していないリスクがあります。もっとも悪いケースでは祭りに連れ出した子供が、アレルギーの発作を起こし、病院で入院となりました。
 またこれは夏美だけではなく、予約なしの顧客への対応に見られるように、加賀美屋にはサービスのマニュアルがなく、各従業員の個人裁量に任されすぎているように感じます。ドラマ、しかもコメディ的なドラマなので笑って見ていられますが、現実にこのような旅館だったら問題です。サービスの品質にばらつきがあると、他の客と扱いが異なる、以前の宿泊時にはサービスしてくれたのに、といった不満を起こす懸念があります。

 ではどうしたら良いか。これまでの加賀美屋の伝統から培ったおもてなしの精神を理念にし、具体的行動をマニュアル化します。マニュアル化されたサービスをOff JT(職場外職務訓練)とOJT(職場外職務訓練)によって研修し、それが実現できたら部屋付けの仲居として、自己裁量も与えます。
 ただし、自己裁量も制限付きの自由で、理念に基づく行動基準を守る必要があります。顧客の要望はとどまることがないので、これ以上は対応できないといった範囲は決めておくべきです。24室もあって、仲居は時江も含めて8人しかいない加賀美屋で、夏美が一人の客に関わりすぎれば、全体の業務に支障が出てきてしまいます。

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加賀美屋のブランド戦略

1 加賀美屋の良さを伝えるために
 旅行代理店に置いておく加賀美屋宣伝パンフレットの見本が加賀美伸一の元へ印刷会社から届きました。その時、支配人の伸一と部下の加賀美柾樹は以下のような会話をしていました。

加賀美伸一「うちのような旅館が生き残っていくためには、ブランド価値を高めるイメージ戦略ってのも大事なんだ。」

加賀美柾樹「だったらあえて装飾を控えるというのも手でしょうね。加賀美屋の魅力は外見よりも、長い間培われてきた伝統にある。それを売りにするんです。特別なものがあるわけではない。しかし目に見えない特別な何かを感じられる。それを伝えるために装飾を省く。その方が伝わるものがあると思います。」

2 ブランドとは?
 ブランドの起源は、自分の牧場の牛と他の牧場の牛とを区別するための焼き印だと言われています。 現代では、ブランドは他社、他社の製品・サービスと識別できる名称、デザイン、シンボルマークなどの総体を意味しています。
 競合他社に比較して消費者によく知られ、良いイメージのあるブランドの会社、製品・サービスは相対的に良く売れたり、高い価格で売れる可能性が高くなります。したがって、企業経営において、ブランド構築が高い優先順位にあります。
 ブランドはPR、広告、製品・サービスの評判や口コミ、消費者自身の利用した感想、などから創られます。ブランド構築にあたって、経営者は会社、製品・サービスが将来こうなって欲しいというビジョンと、実態を考え、ブランドを考えないといけません。将来、高級旅館になりたいというビジョン。そして、加賀美屋が提供する、部屋、施設、調度品、料理、サービス、雰囲気という実態。これら2つの視点からブランドの基本コンセプトが生まれます。
 高級旅館の定義は難しいですが、宿泊単価一人当たり2万円以上、部屋には風呂とトイレが備わり、部屋付きの仲居が宿泊客を接遇し、料理は部屋で食べられる。私は高級旅館というとそんなイメージを持っています。

3 伸一と柾樹の相違
 伸一は長年父であり社長である加賀美久則の片腕として、加賀美屋を支えてきました。その知見から高級旅館としてのブランド構築が可能と考えて、豪華なパンフレットを制作しようとしているのでしょう。
 一方、横浜のシティホテルで勤務していた柾樹は、加賀美屋の部屋、施設、調度品、料理といった目に見えるものからは何かを感じられず、伝統とか雰囲気を評価したのでしょうか。加賀美屋のパンフレットはシンプルな方が良いと提案しています。

 柾樹の提案はパンフレットの表現方法の改善提案をしていますが、その言葉から伸一とは異なるビジョンやブランドイメージを持っているように思えます。パンフレットのようにマーケティングの販売促進のツールの改善提案をするためには加賀美屋が置かれている環境や実態を踏まえて立案された、加賀美屋のビジョン、ブランドのコンセプト、競争戦略が不可欠です。あなたが柾樹の立場であれば、結論に至った背景も説明すべきです。そうしないと提案に説得力を感じられませ。
 一方、伸一の言葉は短いものの、なぜあのようなパンフレットを制作したのか、彼の加賀美屋のビジョンやブランド戦略が理解できました。パンフレット自体は表紙と最初の方しか見ていないので、評価は難しいですが。しかし、伸一は加賀美屋をリゾートホテルにする構想を持っているので、この時期に高級旅館のブランドイメージを定着させる戦略を実施しても、費用の無駄ではないでしょうか?むしろリゾートホテルへ業態転換したときに、0からブランド構築した方が効果的ですし、合理的です。

 細かいことですが、柾樹が上司である伸一にとった態度はいただけません。伸一が自慢げにパンフレットを柾樹に見せているのに、柾樹はさらっと見ただけで、「だったらあえて装飾を控えるというのも手でしょうね。」と伸一の考えたパンフレットを言下に否定し、異なるパンフレットのコンセプトの提案をしています。こうした言い方は親戚とはいえ、上司へ異なる提案をするときの配慮に欠けています。
 まずはパンフレットを褒める。その上で、無駄な装飾を省いてはどうかと提案する。そうすれば伸一が考えているブランドイメージ向上につながる。そんな論理で伸一を説得すべきでしょう。

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「どんど晴れ」第14週のあらすじと経営的視点

1 あらすじ
 加賀美柾樹は横浜のホテルを退職し、加賀美屋へ戻ってきた。元大女将の加賀美カツノと恋人の浅倉夏美は喜ぶが、女将の加賀美環は柾樹が夏美と結婚すれば、夏美を追い出す口実がなくなるため、頭を痛める。カツノは姑として環へ、夏美の立場を悪くしないように女将として責任を果たせということと、柾樹を経営者として育ててくれ、と強く言う。環はカツノから嫌みを言われ、そのフラストレーションで、仲居たちへ当たってしまう。
 柾樹は甥の加賀美伸一の下で副支配人としての勤務することになったが、いきなり加賀美屋の帳簿を見せろ言い、伸一は警戒感をいだく。仲居たちは戻ってきた後継者候補の柾樹へ興味津々だ。そんな柾樹に対して、加賀美浩司の恋人である綾華もただならぬ想いをいだいていた。柾樹、綾華、浩司は幼なじみで、綾華は昔、柾樹を好きだったのである。

2 経営的視点「二元統治を避ける」
 組織が成果をあげられない理由の一つに、統治の機能不全があります。組織が目標を達成し続け、維持していくための統制を「経営統治」と言います。経営統治が機能不全を起こす原因の一つが「二元統治」です。組織へ決定的な影響を与えられる権力者が二人いて、それぞれが経営統治することを二元統治と言います。
 二元統治の構造が組織の中にできあがってしまい、それぞれの権力者がそれぞれの思惑で自分の意思を通そうとすれば、部下へ異なる命令をすることが出てきます。そうなると部下はどちらの命令に従えば良いか分からず、混乱し、結果として組織目標の達成を阻害します。

 さて、加賀美屋を見てみると、元大女将のカツノと女将の環がいます。カツノが現役の大女将だった時は、カツノ-環の間は公式な上下関係があり、公式的にカツノが一元統治していました。もちろん、カツノが現役時代にも、女将の環のシンパがいて、二元統治の構造は非公式に存在していたかもしれません。しかし、公式的な構造である一元統治が非公式的構造の二元統治より優越するという組織の原則を環が遵守していたので、問題はありませんでした。
 一方、カツノは環から「大女将は引退したのだから」と暗に加賀美屋の経営の根幹に関与せず、二元統治にならないよう慎重な言動を取って欲しいと言われていました。それにもかかわらず、孫の柾樹とその恋人の夏美がかわいいのか、環夫婦とその孫が気に入らないのか、姑の立場を利用し、加賀美屋の経営にとって非常に重要な加賀美久則の後を継ぐ経営者、環の後を継ぐ女将の決定に関して自分の意思を通そうとごり押ししています。一方、環は夏美を評価しながらも、カツノに反発し、窃盗行為をして女将としてはまったくふさわしくない綾華に肩入れせざるを得ません。
 確かに柾樹は伸一より経営者としての資質が、「天性の才」を持つ夏美は綾華より女将としての資質があるのかもしれません。たとえカツノの評価が正しくても、今のカツノのやり方では二元統治を加賀美屋に定着させ、組織目標の達成を阻害する危険性があります。

 ではどのように現状の問題を解決したら良いのか。まずは話し合いです。加賀美屋の株式を誰がどの程度保有しているかは分かりませんが、同族経営において資本の論理を押し通すと、骨肉の争いに発展し、会社だけでなく家族のバラバラになってしまいます。
 カツノと環はそれぞれ女としての感情が優先され、二人だけの話し合いでは泥沼化します。経営者の久則は二人の葛藤をうまく裁く力量は
なさそうです。外部の第三者を入れて、納得がいくまで話し合いをし、解決を考えると事から始めることが、今の加賀美屋には必要でしょう。それができず、二元統治から深刻な権力抗争を生み、経営陣が対立して没落する同族経営の企業を他山の石としない事です。

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「どんど晴れ」第13週のあらすじと経営的視点

1 あらすじ
 女将の加賀美環は長男伸一の嫁である恵美子が女将修行に乗り気でないため、女将修行をさせて欲しいと申し出た綾華にも女将修行をさせることにした。綾華の女将修行に対して元大女将のカツノは反対したいが、既に引退しているので、女将の環の申し出を認めた。自分一人が女将修行をできると思いこんでいた夏美も綾華の女将修行に困惑気味だが、自分のための修行だと思い、頑張ることになった。
 番頭の中本が腰を痛めたので、庭の手入れを夏美がやることにした。夏美に対して厳しい態度だった中本も、庭仕事を代わってもらっているため夏美に好意を持つようになった。一方、老舗料亭で育ち、接客の心得がある綾華は接客の仕事を始める。夏美は蔵の中の食器の整理で板長から役に立たないと言われ、器の勉強を一生懸命にするが、脚立かた落ちて怪我をする。

 怪我をした夏美だけでは大変なので、時江は綾華にも蔵の整理を手伝わせる。綾華は不注意で大女将が好きな織部の小皿を割ってしまう。女将は仲居を集めて、誰が小皿を割ったのか、問いただす。しかし、金を盗んでも女将修行をさせて欲しいと言うくらい悪い女である綾華は正直に言い出せない。浩司から綾華への想いを聞いている夏美は綾華をかばって、「私が割りました」と申し出る。綾華と夏美の不自然な言動を見て、女将は綾華が隠し立てしたと気づいたが、自分が女将修行をさせている綾華の立場を悪くしないように、夏美が割ったことで事を納めた。
 環はその機会を捉えて、夏美を追い出しにかかる。環は夫の久則と長男の伸一と共にカツノのもとへ行き、「夏美のために加賀美屋の和が乱れている」と訴える。それ以上のことを言えない環に代わって伸一がカツノへ言った。「柾樹が戻ってこなければ、夏美さんと加賀美屋は何のゆかりもないことになります。どうして柾樹と夏美にこだわるんですか。自分も大女将の孫です。俺のこと見てくれていますか。なぜ俺を認めてくれないんですか。単刀直入に言います。夏美さんの女将修行を止めさせていただきたい。」

 夏美のために、加賀美屋の雰囲気が悪くなる。夏美を追い出したい環は仲居たちを叱りもせず、放置する。加賀美屋が修羅場になっているのに、いつまでたっても横浜のホテルで楽しく働いていた。加賀美屋の常連客である吉田家の婚礼が柾樹のホテルで行われ、柾樹の発案による結婚式のインターネット中継が採用された。吉田が夏美へ感謝の気持ちを述べている情景を見た柾樹は、「夏美のそばへ行く。盛岡へ戻って加賀美屋を継ぐ。」とその決心を夏美へ伝える。

2 経営のポイント「権力闘争」
 人間が複数集まれば、そこに関係が生まれ、状況によっては権力の行使と需要の関係が生じます。人間には支配欲があるため、権力の関係はしかたがない面があります。加賀美屋のような株式会社には大女将-女将-仲居頭-仲居といピラミッド型の公式の指示・命令系統があります。それとは別に姑のカツノと嫁の環、姑の環と嫁の恵美子、伸一と恵美子といった非公式な権力関係も生まれます。
 権力関係も行使される側、それを受ける側、互いに納得し、共存出来ればよいのですが、その権力関係が権力を巡る争い、すなわち権力闘争になり、人間関係を悪くしたり、企業の目的を阻害することになります。従って、権力闘争が起きないように配慮するのがリーダーである大女将や女将の役割です。さて、第13週では大女将と女将の権力闘争、そして、その代理戦争としての夏美と綾華の争いに注目してみましょう。

 元大女将のカツノは柾樹の母であった俊江を女将にするため、環の女将修行の申し出を認めませんでした。カツノは環は優れた女将であると認めるものの、一つだけ欠けていると考えています。それを環には伝えず、環の次の女将として、俊江の長男である柾樹を経営者へ、その嫁になるであろう夏美を女将へ育てようとしています。そして、環の長男伸一には旅館を継がせるとは考えていません。
 一方。カツノは死んだ俊江より評価されていない女将の環は、カツノへの恨みやカツノに可愛がれている夏美へ嫉妬心もあります。それがカツノに肩入れしてもらっている夏美を盲目的に追い出す、誘因になっているようです。

 加賀美屋はカツノが大女将だった時代に経営を悪化させてしまいました。もちろん、カツノを支えていた環や次男の久則にも責任はありますが、カツノいじょうではありません。そうした自分の経営責任を棚に上げて、環の女将と資質を論じるカツノは自分自身の経営責任をどう感じているのでしょうか。
 そのカツノが環の意向を無視して、次を担う若女将候補として夏美に決めることは、環の権力を抑制し、女将の後継者である若女将へ自分の影響力を温存すると誤解されます。それは、カツノと環の権力闘争だけでなく、環と夏美の関係を悪くします。環がそれに反発し、綾華に女将修行をさせれば、綾華と夏美の間で権力闘争が生じます。さらに柾樹と伸一の間の権力闘争を生じさせます。

 それでは、どう解決すべきなのでしょうか。カツノは不本意であったとしても自分の後継者として環を選んだのであれば、環が女将として手腕を振るいやすい環境を創ってあげるべきです。カツノは引退と共に権力を手放し、旅館の経営に口出しすべきではありません。
 環と久則夫婦、長男の伸一と次男の浩司は既に加賀美屋を支える重要な戦力になっています。したがってかつて女将であった俊江の長男である柾樹を加賀美屋へ戻すことは、彼らを加賀美屋の中核から外すことに繋がりかねません。そうなれば権力闘争が生じますし、旅館経営に関してはよく分からない柾樹へ加賀美屋を任せるリスクもあります。したがってこうした意思決定はカツノは慎重にすべきでしたし、意思決定の際には家族親族会議を行い、環一家と柾樹の役割分担や将来の処遇を議論し、彼らの不安や不満を和らげながら、合意を得るべきです。後の祭りですが。
 もし、どうしてもカツノが柾樹、夏美に加賀美屋を継承させたいのであれば、子会社や事業部を新設し、久則や伸一にはそこを任せるような工夫をすべきでしょう。

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黒川温泉、成功の秘訣①

1 別府温泉、湯布院、そして黒川温泉
 現在、熊本県に来ています。お目当ては黒川温泉。私的旅行ではなく、黒川温泉の成功の秘訣を探る仕事です。だからといって、温泉に入らないわけではなく、温泉も楽しんでいます。そんなわけで、ネット環境になく、このブログもしばし、更新をお休み。
 九州で有名な温泉で言えば、別府温泉です。別府温泉は大規模なホテルや旅館が建ち並び、日本が豊かになっていく時代に、団体客を中心に客を集め、人気を得ました。しかし、その後、大規模なホテルや旅館が建ち並ぶ、歓楽的な温泉地の人気は下降気味です。そのような時代に注目を集めたのが同じ大分県にある湯布院です。
 湯布院は朝の連続ドラマ小説「風のハルカ」のロケ地になった地域で、別府の奥にある町です。温泉街という温泉旅館の集積は見あたりません。湯布院はどこでも温泉がでるので、温泉旅館は点在し、湯布院の住民の生活空間と共生をしています。イベントも積極的に行い、美術館なども多く、日本でも有数の温泉地として有名になりました。
 湯布院から車で1時間もかからない場所にあるのが、熊本県南小国町にある黒川温泉です。湯布院のまちづくりはNHKのプロジェクトXで取り上げられましたが、黒川温泉の成功物語も湯布院に勝るとも劣らない、ドラマチックなものです。

2 黒川温泉の成功の秘訣
 黒川温泉は泉質は良いものの、以前は入り込みも少ない、寂れた温泉地でした。しかし、今では年間宿泊客34万人と、人気の温泉地になりました。今回はその成功の秘訣の一端をお伝えしましょう。
 黒川温泉には「入湯手形」というユニークなシステムがあります。そこの温泉地でも日帰り入浴を取っている旅館がありますが、黒川温泉では1200円出して入湯手形を購入し、黒川温泉の24軒の旅館の中から3ヶ所の温泉を選び、入ることができます。黒川温泉の各旅館が工夫を凝らした露天風呂を持ち、その露天風呂巡りを楽しめるのです。
 黒川温泉内はけばけばしい看板や建物はなく、各旅館はひっそりと自然の中に溶け込んで建っています。自然と旅館の共生が非常に素晴らしく、落ち着き、癒されます。
 黒川温泉のコンセプトは自然で素朴な田舎の温泉地です。そのコンセプトを24軒の旅館は守って、経営をしています。黒川温泉があたかも一つの旅館のように捉えられ、各旅館は離れ、道路は廊下と喩えられています。自然との共生というコンセプトに沿った作り込みは細部にわたっており、ガードレールも黒く塗るほど徹底しています。温泉地版東京ディズニーランドと言えます。
 こうした黒川温泉のコンセプトは、個人客が中心になっている現在の温泉旅館に対するニーズに沿ったものであり、癒しの時代にぴったりで、黒川温泉への人気は平成に入り、うなぎのぼりです。人気が高まった後も、セグメンテーション戦略をしっかり実行し、熱烈な黒川温泉ファンを生み出しているようです。

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