1 北美別町の合併の背景
視聴率が低迷していますが、友人間、家族間、親子間の葛藤を乗り越えるというストーリーが私の琴線に触れるものがあり、必ず毎週見ています。ただ、北美別町の合併話はとって付けたようなストーリーで、しかもその展開が現実の市町村合併をミスリードしそうなので、ドラマのストーリーに文句を付けたくはありませんが市町村合併に関して説明をしておきます。
そもそも市町村合併がなぜ、行なわれるかというと行政の適正規模にするということです。市町村合併を歴史的に見ると、これまで3回、国を挙げての合併ブームがありました。1888年の明治の大合併、1953年から1961年にかけて行なわれた昭和の大合併、そして2003年から2005年にかけて行なわれた平成の大合併です。このドラマの北美別町の合併は、2005年に施行された合併新法に伴う合併の動きでしょう。
この時期に総務省が主導して平成の大合併を推進した主目的は、国の分権化に伴う市町村の組織強化と悪化する市町村財政の再建です。高清水牧場がある北美別町も主産業の酪農が衰退していることで、町役場は財政的に厳しく、今後の見通しが暗いため、合併を検討しているのでしょう。
2 北美別町の合併協議
北美別町は恵幌市を中心とし、他の町村と共に合併を協議しています。合併には2種類あります。合併する市町村の地方公共団体が解散し、新たに地方公共団体を設置する新設合併。北海道では旧鵡川町と旧穂別町の合併は新設合併の一例です。そして、合併する市町村の中で1つの地方公共団体が存続し、残りの地方公共団体を解散して、存続した地方公共団体へ統合される、編入合併があります。北美別町はこちらの例になります。
合併をしようとした場合、合併を検討する市町村が法定合併協議会を設置し、そこで、合併の協議を行ないます。法定合併協議会では、合併した後の地方公共団体の組織体制の再編、財政シミュレーション、公共サービスと公共施設の再編、地域経済や産業振興、など合併後の自治体経営と地域経営を協議します。
協議の過程ではできるだけ良い条件で合併しようとするための駆け引きが合併当時団体間であります。そこで、新しい名前、役所や公共施設の位置、組織の統合に関する合意ができず、合併が流れる事もあります。また、財政状況を開示してもらったら、思った以上に相手の財政状況が悪いことが判明し、合併を白紙に戻すこともあります。北海道の地方公共団体の中には財政危機から、合併相手が見つからない団体もあるようです。また、自分たちの地域の将来に対する不安から、感情的な反対運動が住民から起こり、合併が頓挫する事もあります。
このドラマの中で恵幌市長が、北美別町を酪農からバイオディーゼルの燃料にするトウモロコシなどの畑作へ転換する政策を演説していました。既存の酪農家がいるのに、その酪農を止めて、補助金がないと立ちゆかない、リスクが大きなバイオディーゼルの燃料を作るための畑作へ転換するというのは非現実的でしょう。
合併協議の過程で、住民投票などを行なって地方公共団体の首長が合併をしないことを決め、法定合併協議会を解散したり、そこから離脱する市町村もあります。ドラマの中で、北美別町の住民投票が行なわれ、住民投票の結果を宮本奈津美恵幌市議会議員が恵幌市長へ持って行くというのも首をかしげる行動です。住民投票の結果を踏まえて合併をしないのであれば、北美別町長が法定合併協議会で正式に合併取り止めを伝え、協議会を離脱する、というやり方が本来の手続きです。ドラマをおもしろくするためとはいえ、誤解を招くストーリーです。
3 市町村合併がもたらす未来
私は函館市に編入合併された戸井支所と仕事をしています。また、合併した市町村で働く知り合いの職員から法定合併協議会での協議や合併後の統合において課題をいろいろ聞いています。合併には確かに地方公共団体が大きくなることで得られるメリットがある一方、地方公共団体が大きくなることでの弊害や行政区域の広域化が行政サービス提供に問題を生じさせる事もあります。市町村合併は必ずしも明るい未来をもたらすとは限りません。
合併した後、合併した市町村の中で人口の移動があり、編入合併の場合、編入された市町村の人口が減少し、旧市町村の行政機能が縮小され、地域が寂れるケースは良くあります。また、平成の大合併で誘因になった合併特例債を出して、新たな公共施設を作り、財政を悪化させてしまうケースも出てきています。
だからといって合併しない選択が正しいかと言えば、そうでないこともあります。市町村合併しない場合、単独で自立して生き残る必要があります。そのため、地方公共団体は特別職(首長や副首長等)、職員、議員の人件費を削減したり、公共サービスの見直しを行ない事業費も削減したりします。また各種公共サービスの料金を値上げすることも行なわれるかもしれません。従来は地方公共団体が公共サービスとして行なってくれていたことを住民が代わりに行なわなくてはならないかもしれません。
市町村合併にあたっては合併を行なった場合、単独で自立して存続した場合、2つの選択がもたらす地域のビジョン、住民への影響を地方公共団体は示さなくてはなりません。また、住民は市町村合併を当事者として真剣に考える必要があります。
さて、このドラマに出てきた北美別町の住民は、自分たちの地域の未来を真剣に考えていたでしょうか? 酪農実習に来ていたよそ者の学生たちに町を守りたいと言われて、住民はどう思ったでしょうか? 自分たちの町が合併しないのであれば、何をしなければならないか、考えていたのでしょうか。北美別町の住民を見ていて、そんなことを感じました。しかし、現実も高清水の父と同様に、日常の生活に追われ、地域の未来など考える余裕はない、ドラマと似たような状況でしょう。
市町村合併は現実の地域の課題です。それをドラマの中でこの程度の扱いにするのであれば、むしろ、消費低迷、海外からの輸入圧力、後継者難、赤字経営といった日本の酪農業の抱える問題点をもっと掘り下げて展開した方が良かったと思います。
スポンサーサイト
テーマ : 仕事の現場 - ジャンル : ビジネス