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河西邦人

Author:河西邦人
札幌学院大学教授。企業経営から地域経営までをカバーする。北海道公益認定等審議会会長、北海道地域雇用戦略会議メンバー、北海道コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス協議会会長、江別市、北広島市、夕張市、石狩市、積丹町、ニセコ町等のまちづくりアドバイザー、各種起業講座や経営講座の講師など公的活動を行っている。北海道NPOバンク理事を通じた社会活動にも従事。著書として、『コミュニティ・ビジネスの豊かな展開』(監修)、『NPOが北海道を変えた。』(分担執筆)、『ソーシャルキャピタルの醸成と地域力の向上』(共著)、『ドラマで学ぶ経営学入門』(単著)がある。

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鈍感力は旅館の女将に必要か?

1 浅倉夏美の鈍感力
 作家の渡辺淳一氏が執筆した『鈍感力』という本が売れています。 鈍感、すなわち、周囲に対しての気遣いの感性が鈍いというのは従来、マイナスで捉えられていましたが、渡辺氏は鈍感を評価しています。周囲のことが気にならないほど打ち込むこと、それが困難なことをやり遂げる時に必要なこととしています。
 さて、「どんど晴れ」で浅倉夏美の主人公は、周囲の人の心情に無頓着な女性で、今流行の鈍感力が高い女性なのでしょうか?

・職場放棄したのにもかかわらず、加賀美屋へ戻って来て、大女将の加賀美カツノと女将の加賀美環に対して最初の第一声は「もう一度修行をさせてください」。普通の人は職場放棄という行為を謝罪するのではないでしょうか。

・女将が「あなたが加賀美屋へ戻り、修行を続けることに対して賛成しかねる」と夏美へ伝えた時、夏美は呆然とした表情で、女将の言葉が信じられないという表情をしていました。女将夏美に対して発した言葉の背景にある心情を理解できないからでしょう。

・婚約を白紙に戻すと言った婚約者の実家で修行を続け、初日にして電話をする行動は、加賀美柾樹が夏美の婚約白紙の本意を理解しているにせよ、失恋した柾樹の気持ちをえぐるような行動ではないでしょうか。

・茶会で使用される茶釜を平治の工房へ取りに行きました。加賀美伸一の発言で怒っている平治に対して、「修行を続けたいから茶釜を欲しい」と言いました。怒った平治は「帰れ」と言いますが、夏美は「創ってくれるまで帰りません」と逆ギレして、居座り続けました。

4例をあげましたが、夏美の行動は周囲の人の心情を考えないで、自分の目標を追求する、鈍感力の強い人と言えます。

2 鈍感力は免罪符ではない
 周囲の人の心情を考えず、自分のやりたいことをやり、成し遂げる行動は、渡辺氏が書いているように、成果をあげるかもしれません。その成果が周囲の人にとって良い影響を与えるならいいのかもしれません。
 しかしながら、鈍感力の高い人の行動は周囲の人にストレスを与えます。例えば、夏美が宿泊客の子供を祭りに連れ出し、アレルギーの発作を起こさせてしまった事件は、上司の時枝の命令を無視した結果、生じたことです。それによって、時枝は解雇という処分を受けています。夏美の行動で人生を狂わせられた時枝は、時枝の命令を無視し、ミスを犯し、大きな問題を起こしたことに対して謝罪をしない夏美の鈍感力に対して、仕方がない、「天性の才」と言って許せるでしょうか。時枝にとって「天性の災」です。
 周囲の人の心情を考えない行動、それが顧客の心情を考えない鈍感な行動だとしたら、大きな災いを加賀美屋へ与えます。評論家斎藤愛子から起こされた訴訟に対する夏美の行動も、いっそう事を大きくし、加賀美屋の経営に打撃を与えることになったかもしれません。そうしたリスクを理解すれば、夏美の鈍感力はおもてなしの精神と反すると思います。
 課題を突破する、大事を達成するために鈍感力が必要という渡辺氏の考えは、理解できるところはあります。難事をなす時には鈍感力で周囲の反発を気にせず、正しいと思う事を実行し、達成しなくてはならない事もあります。旅館の大女将として、加賀美屋の伝統を守るため、夏美に女将修行させています。こうしたやり方をすれば、旅館の後継者としての自覚を持っている女将の環や次男一家がどういう気持ちになるか、と言うことにはあえて鈍感になり、経営判断をしています。
 しかし、旅館経営の視点から鈍感力は、100%支持できません。顧客の心情を十分理解し、予測し、その顧客にあった最良のサービスをすることが、旅館の女将の務めです。鈍感力は免罪符ではありません。鈍感力がもたらす周囲へのマイナス、組織経営のリスクを理解した上で、旅館の女将は鈍感力を時と場合によって使い分ける必要があります。鈍感力が高い人は、そんなことを考えないかもしれませんが…
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テーマ : 企業経営 - ジャンル : ビジネス

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コメント

なるほど『鈍感力』

渡辺淳一氏『鈍感力』という本、知りませんでした。成程、鈍感力ですか。
うーん、確かにそうですね、夏見は鈍感力がマイナス方面のみに向いてるような…。
でも。考えても見てください。彼女は修行中の身。就業1年目。最初から完成された人間なんていません。(私も、自分の社会人1年目を思うと、恥ずかしくて穴があったら…てなもんです)。でも、人間は成長します。新人の頃から、その人の持つマイナス面だけ見てちゃ、その人間は大成しませんよね。良いところを伸ばす。失敗したら「良い経験をしたね。これで君は、今後この失敗をしないですむよね」と言ってやらねば。

それよりもあの旅館には、夏美のあの、何をしでかすのかわからない、新風を巻き起こす「突進力」「鈍感力」が必要なのではないでしょうか。古い老舗旅館。問題は山積している。そこに必要なのは、従来のタイプの人間じゃありません。破壊力の在る人間です。
(というか、夏美が正樹を待たずに単身乗り込んだ最初の頃の週の時点で、私などは「この女凄い」「絶対何かしでかす」とワクワクしたものです。)

ちなみに私が思うに、夏美にとってのラスボスは絶対、あのしきたりを、しきたりだというだけで重んじる料理人さんですね。番組のラストでは、彼や旅館全体を巻き込んで、夏美はあの旅館を大きく変えてゆくのだと思うのです。それには「鈍感力」がなくちゃ、やってけませんよー。と、私は思うのです。

にしても、現在のところは彼女の鈍感力にはイライラ・ハラハラさせられ通しです。早く8月~9月の番組後半を見てみたいものです…。

鈍感力と経営革新

 りんどうさん、はじめまして。
ブログ管理者の河西です。
このたびはコメントをありがとうございます。

 渡辺淳一氏の『鈍感力』を褒め称えた一人に、小泉前首相がいます。彼は自民党の事情や人間関係に囚われず、「自民党をぶっ壊す」改革をある程度、成し遂げました。彼の鈍感力が改革にプラスになり、それを踏まえて『鈍感力』への発言になったと思います。

 さて、老舗旅館の加賀美屋は近年、経営業績が低迷しているという前提の話です。ドラマなのでそこまでは描かれていませんが、老舗旅館の伝統や習慣が、新しい時代に適応していない、と大女将は分析していたのでしょう。大女将はこのような状況を打破したいと考えている時に、旅館業界の常識を身につけておらず新しい発想をでき、人を惹きつける天性を持っている浅倉夏美に出会い、彼女に新しい加賀美屋を託したくなったのかもしれません。しかし、加賀美伸一のようにホテルへ業態転換を望んでいる訳ではなく、加賀美屋という老舗旅館の存在意義を継承しつつ、経営革新を起こしたかったのだと思います。
 そうした大女将の意図からすれば、夏美の鈍感力は強みになります。りんどうさんもご指摘のように、老舗旅館に新風を起こすためには、破壊力がある人間が必要だからです。

 鈍感力は経営革新を起こす人材に不可欠な能力ですが、接客サービスにおいてマイナスになる懸念があると言うことです。接客サービスにおいては、旅館側の価値観を過度に押しつけるサービスをするのではなく、顧客の心情を察し、加賀美屋流のおもてなしを提供していく必要があります。顧客の心情に対して、決して鈍感であったり、自己中心的であったりしてはならないのです。
 これまでのドラマの様々なエピソードを見ていると、老舗旅館を革新していく時も、顧客に向かい合う時も、夏美の鈍感力は変わらないように思えます。組織を革新していくリーダーとしての行動と、顧客に接する時の行動は意識して変える必要があるのでしょう。それが、旅館の女将になる場合、夏美の課題になると考えます。

 夏美が大女将の見込んだような女将になれるかは、そこに気がつき、学習できるかどうかです。NHKの連続ドラマですから、主人公が成長していき、ハッピーエンドに終わるのが分かっていながら、こんなことを書くのは無粋かもしれませんが、夏美の鈍感力に対する私の考えです。駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

夏美の鈍感さ

「どんど晴れ」「鈍感」と検索してこちらにたどりつきました。毎日ドラマを見てしまうのですが、だんだん夏美の態度が気になり出しました。「鈍感」ということばがピッタリだなぁと思ったもので。現在サービス業での起業を目指しているわたしにとって最も関心のある言葉が「おもてなし」です。夏美は「自分が自分が」が強すぎて相手の気持ちをまったくくみ取れないんですよね。「顧客の視点」がなさすぎるようです。
私が気になったセリフは、平治さんのところにかまをもらいにいったときに、「平治さん、茶がまをつくってください。大変だったら私、手伝いますから」というもの。ひえ~~~。「大変だったら」←別に大変だから作らないといってるわけでない。問題の本質を理解していない。「私が手伝いますから」←職人の仕事に対する敬意のかけらもない・・・・
いま、みんなに意地悪されて大変な夏美ちゃんですが自業自得なところもいっぱいありますね。もちろん、意地悪ってのも論外ですが。どうやって成長してくのでしょうか・・・・

旅館の女将は大変

 ももちやんさん、コメントをありがとうございます。
 
 鈍感というパーソナリティは、抵抗にくじけず変革を行うリーダーには必要な特質です。ももちやんさんがコメントされたように「おもてなし」の精神と「鈍感」は相容れない部分があります。
 いくつかの旅館の女将や若女将に話を聞いたことがありますが、彼女たちは「おもてなし」を実現するため、顧客の言動、それだけでなく心の動きにも敏感に感じ取るようにしているそうです。
 そして、従業員に対しても顧客に対してと同じように敏感に感じ取るようにしているそうです。旅館は従業員のサービスも非常に重要です。従って、従業員に対する気配りや心遣いが重要だそうです。そうなると、従業員の顔色をうかがうリーダーになり、組織の統率にマイナスになる懸念があります。そこは組織のリーダーとして、従業員がどう考えようが、あえて鈍感になって毅然とした言動を取ります。その後はフォローをする必要がありそうですが。そう考えると、女将は鈍感なだけのリーダーでは務まらない、大変な仕事ですね。

 話を聞いた女将たちも初めは顧客の心を読み切れず、いくつも失敗をしてきた苦い経験から学んで、立派な女将になったそうです。仕事の中から水から学んでいく姿勢と能力が、夏美に問われるのではないかと考えます。ミスがなぜ、起こったのか。良く考え、そこからミスを起こさない対策を考える。サービス業に従事する人はEQ(心の知能指数)が高くないと、大成しないでしょう。
 今日は元大女将のカツノから、なぜ他の従業員に誤解されたのか、嫌われたのか、教えてもらいました。夏美は問題を解決すると共に、二度と同じことが起きないように学べるか。女将としての資質が問われます。

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